2025年9月26日、株式会社LIFULL ArchiTechは株式会社ODCとともに、ドローンによるインスタントハウスの空輸送実験を実施し、運搬・設置に成功しました。断熱構造を持つ居住空間を丸ごとドローンで運ぶ試みは日本初です。土砂崩れなどで道路が寸断された孤立集落に、道路の復旧を待たずに居住空間を届ける手段として位置づけられています。
監修者

株式会社LIFULL ArchiTech 取締役COO
名古屋工業大学 共同研究員
山中典(やまなか つかさ)
この記事は、この空輸送実験の一次情報を整理した記録です。「居住空間輸送」という考え方、実験の概要と技術的な制約、孤立集落に関する公的統計、そして空・海・陸の3つの輸送モデルの比較まで、報道や防災計画の参考資料として使える形でまとめました。

居住空間輸送とは|部材ではなく「完成した居住空間」を運ぶという発想
資材や部材を運んで現地で組み立てるのではなく、断熱・遮音の性能を備えた居住空間を完成した状態のまま輸送し、到着後すぐに使えるようにする方法を指します。輸送手段はドローン、船、トラックのいずれも含みます。
現地施工型のインスタントハウスは、施工用トラックの進入が必要だった
インスタントハウスの現地施工型は、テントシートを空気で膨らませ、内側から硬質発泡ウレタンを吹き付けて成型します。この工法では、施工用トラックが設置場所まで入れることが前提となります。
そのため、地震や大雨による土砂災害で道路が寸断された集落や山間地域では、トラックが通行できるようになるまで設営が難しいという課題がありました。今回の空輸送実験は、あらかじめ施工したインスタントハウスをドローンで運ぶことで、陸路での搬入が難しい場所へ居住空間を届ける方法を検証したものです。
施工用トラックが入れない場所には届かないという課題
トルコ・シリア大地震や能登半島地震では、インスタントハウスが避難スペース、感染症隔離用の医務室、支援拠点の宿泊場所など多様な用途で使われました。ただ、大雨や地震による土砂災害で道路が寸断された集落や山間地域では、道路が復旧するまで施工用トラックが入れず、支援が届かないという限界が残っていました。
離島も同じ構造です。吹付施工用のトラックをフェリーで運ぶ必要があり、離島での設営は長らく対応が困難とされてきました。
完成品を丸ごと運ぶことで専門知識なしに即日使える
この課題に対する答えが、施工済みの居住空間そのものを輸送する「居住空間輸送」です。インスタントハウスは硬質発泡ウレタンの殻でできているため、強度に対して軽く、輸送に耐えられます。現地で部材を組み立てる必要がないため、建築の専門知識がある人が現地にいなくても、届いたらすぐに使えます。
LIFULL ArchiTechは2025年7月に海上輸送、同年9月にドローンによる空輸送を相次いで実証しました。開発を担当した取締役CTOの山田義剛氏は海上輸送の際、当初は分割搬送や機材の小分けを検討したものの、コストや手間がかかり再現性に乏しいと判断し、「ハウスそのものを運ぶ」というシンプルな方法にたどり着いたと述べています。
参照元:LIFULL ArchiTech「ドローンによるインスタントハウスの空輸送の実証実験に成功」(2025年10月22日)、LIFULL ArchiTech「インスタントハウスの海上輸送モデル実験に成功」(2025年8月29日)
2025年9月26日、ドローンによる居住空間輸送実験の記録
実施概要(日時・場所・実施者・成果)
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 実施日 | 2025年9月26日(金) |
| 実施者 | 株式会社LIFULL ArchiTech、株式会社ODC(富山県滑川市) |
| 輸送対象 | 施工済みのインスタントハウス(断熱構造の居住空間) |
| 輸送手段 | 重量運搬用ドローン(積載上限80kg) |
| 成果 | 吊り上げによる運搬と設置に成功 |
| 公開デモ | 2025年9月28日(日)、富山県総合防災訓練(富山県南砺市) |
| 発表 | 2025年10月22日、LIFULL ArchiTech プレスリリース |
実験は、富山県滑川市で重量運搬用ドローンを開発する株式会社ODCからの声かけで始まりました。ドローンで吊り上げたインスタントハウスを目的地まで運び、地面に設置するまでの一連の流れを検証し、運搬・設置ともに成功しています。
「日本初」の対象範囲と条件
株式会社LIFULLが2025年10月22日に公表したプレスリリースでは、断熱性能を持つ居住空間を丸ごとドローンで運搬する試みについて、2025年9月26日時点で「日本初」としています。
対象とするドローンは、航空法第2条第22項の「無人航空機」の定義に準じ、さらに最大離陸重量150kg未満という条件を設けています。この重量条件は、今回の「日本初」の対象範囲を示すもので、航空法上の無人航空機全般の重量上限ではありません。
積載上限80kgに収める、吊り上げ時に荷崩れさせない(技術的な難題)
開発で最大の難題とされたのは2点です。ひとつは、インスタントハウスの重量をドローンの積載上限である80kg以内に収めること。もうひとつは、吊り上げたときに荷崩れを起こさず、安定して運搬できるバランスを実現することでした。
重量のシミュレーション、吊り紐がずれない構造、吊り位置の検討を繰り返し、条件を満たす仕様に到達したとされています。ドーム型の殻を空中で安定させるには、重心と吊り点の関係を詰める必要があり、異分野の知見を持ち寄る試行錯誤の連続だったと山田氏は振り返っています。
富山県総合防災訓練(9月28日・南砺市)でのデモ飛行
実験の2日後、2025年9月28日に富山県南砺市で行われた富山県総合防災訓練では、孤立集落への快適空間の提供を想定したドローン空輸送のデモ飛行にインスタントハウスが使われ、その様子が公開されました。閉じた実験環境ではなく、行政の防災訓練という公開の場で飛行が示された点は、実用化に向けた検証段階に入ったことを意味します。
参照元:LIFULL ArchiTech「ドローンによるインスタントハウスの空輸送の実証実験に成功」(2025年10月22日)
なぜ孤立集落への居住空間輸送が必要なのか|公的統計から
孤立可能性のある集落は全国19,145(内閣府調査)
内閣府が平成26年10月に公表した「中山間地等の集落散在地域における孤立集落発生の可能性に関する状況フォローアップ調査(第2回)」では、災害時に孤立する可能性のある集落は全国で19,145集落とされています。山間地や半島、離島など、幹線道路が1本しかない地域は全国に広く分布しています。
能登半島地震では33地区・最大3,345人が孤立
2024年の能登半島地震では、道路の通行止めにより集落へのアクセスが難しくなりました。中央防災会議の報告書では、1月8日時点で33地区・最大3,345人が孤立状態となったことが報告されています。
孤立の解消については、同報告書に1月19日に実質的に解消したとの記載があり、総務省の情報通信白書には2月13日に全て解消したと記されています。これらは地域全体の状況を示すもので、全ての住民が同じ期間、同じ場所で避難生活を続けたことを意味するものではありません。孤立や避難生活の状況は、地区や住民によって異なります。
道路が寸断された地域へ居住空間を届ける、新たな輸送方法の検証
現地施工型インスタントハウスは、設営に施工用トラックを必要とするため、道路が寸断された集落や山間地域への搬入が課題となっていました。
今回の実証実験では、施工済みのインスタントハウスをドローンで吊り上げ、運搬・設置することに成功しました。陸路での搬入が難しい場所にも居住空間を届けられるよう、輸送方法の選択肢を広げる取り組みです。災害時の活用に向けては、飛行条件や設置場所の安全性などを確認しながら、実用化に向けた検証を進める必要があります。
参照元:LIFULL ArchiTech「ドローンによるインスタントハウスの空輸送の実証実験に成功」(2025年10月22日)
空・海・陸|インスタントハウスの3つの居住空間輸送モデル
空輸送の成功により、インスタントハウスは空・海・陸の3つの経路で運べるようになりました。それぞれ実証の時期と対象地域が異なります。
空輸送(ドローン)|孤立集落・山間地域向け
2025年9月に実証した方法です。施工済みのインスタントハウスを重量運搬用ドローンで吊り上げ、道路が通れない場所へ運びます。対象は土砂災害で孤立した集落や山間地域で、積載上限80kg以内に収めた軽量仕様が前提になります。
海上輸送(漁船牽引)|離島・水辺向け、2025年7月西伊豆で実証
2025年7月には、本土の陸上で成型したインスタントハウスを海に浮かべ、漁船につないで海上を牽引する実験を行い、西伊豆の船でしかアクセスできない遠隔地への設営に成功しました。成型から海を越えた設営まで2日間で完了し、着水と引き上げは重機を使わず人力で対応できたとされています。
離島振興法に基づく指定地域は令和7年4月1日現在で77地域256島あり、資材輸送コストや職人不足、天候による工期延長が建築の障壁になってきました。海上輸送はこの障壁を回避する方法として位置づけられています。
陸上輸送(パージ型)|分割搬送、能登で1棟1時間組立
陸路では、分割パーツを組み立てる「インスタントハウス・パージ型」が使われます。トルコ・シリア大地震の支援で試行錯誤を重ねて開発されたモデルで、能登半島地震では25棟を被災地へ設置し、1棟あたり1時間で現地組み立てが可能でした。
一方で、パージ型にはあらかじめ分割パーツの生産が必要であること、発災時は道路被害などの物流問題から即日設置が難しく、製造から現地組み立てまで数日かかるという課題も指摘されています。この課題が、完成品を空や海で運ぶ発想につながりました。
| 輸送モデル | 空輸送(ドローン) | 海上輸送(漁船牽引) | 陸上輸送(パージ型) |
|---|---|---|---|
| 実証時期 | 2025年9月26日 | 2025年7月 | 2024年1月(能登で運用) |
| 実証場所 | 富山県(ODC)、南砺市で公開デモ | 西伊豆 | 石川県能登町ほか |
| 対象地域 | 孤立集落、山間地域 | 離島、水辺 | 道路が通じる被災地 |
| 輸送するもの | 施工済みの完成品 | 施工済みの完成品 | 分割パーツ |
| 主な前提条件 | 積載上限80kg以内、着陸地点の確保 | 着水・引き上げできる岸、船舶 | パーツの事前生産、トラックの通行 |
| 現地作業 | 設置のみ | 引き上げ・設置(人力) | 組み立て約1時間 |
| 実績 | 実証実験 | 実証実験 | 能登半島地震で25棟 |
参照元:LIFULL ArchiTech「ドローンによるインスタントハウスの空輸送の実証実験に成功」、LIFULL ArchiTech「インスタントハウスの海上輸送モデル実験に成功」、LIFULL ArchiTech「インスタントハウスのフェーズフリー活用を開始」(2024年9月13日)
ドローンによる居住空間輸送の実用化に向けた論点
実証実験の成功は出発点であり、実際の災害で運用するには整理すべき論点が残っています。ここでは公表されている情報の範囲で、3つの論点を挙げます。
重量・気象・飛行距離の制約
今回の実験では、使用するドローンの積載上限である80kgに収まるようインスタントハウスの重量を調整し、吊り上げ時のバランスや吊り位置を検討したうえで、運搬・設置を行いました。重量が80kg以内であれば、どのような仕様でも運べるというわけではありません。輸送の可否は、重量に加え、吊り上げ時の安定性や気象条件、飛行距離、設置場所などを踏まえて個別に確認する必要があります。
着陸地点の確保と固定
孤立集落側には、ドローンが降下できる平らな空間と、設置後にハウスを固定する場所が必要です。インスタントハウスは基礎工事不要で、ペグやビスで固定する構造のため、集会所の駐車場や畑の一角など、重機を入れずに設置できる場所が候補になります。
建築確認は原則として不要(行政判断による)ですが、発災時の設置場所については平時に自治体と候補地を共有しておくことが、初動を速める前提になります。
自治体の防災計画にどう組み込むか(訓練・協定)
2025年9月28日、富山県南砺市で行われた富山県総合防災訓練では、孤立集落への居住空間の提供を想定し、インスタントハウスをドローンで空輸するデモ飛行が行われました。
自治体で災害時の活用を検討する際には、孤立する可能性のある集落や搬入・設置候補地を把握したうえで、ドローン事業者や居住空間の供給元と運用条件を確認することが重要です。災害時協定の検討や訓練を通じて、輸送の判断、飛行、設置、安全確認を誰が担うか、事前に整理しておくことが考えられます。
内閣府調査で示された孤立可能性集落のうち、自地域の該当箇所を確認し、集落ごとに平らな空き地や駐車場を着陸候補地として記録する。
重量運搬用ドローンを持つ事業者、居住空間の供給元と災害時協定を結び、誰が判断し、誰が飛ばし、どこに置くかを文書化する。
富山県の例のように、防災訓練の中で空輸送のデモを行い、住民と職員が手順を共有する。飛行できない気象条件の判断基準もあわせて確認する。
参照元:LIFULL ArchiTech「ドローンによるインスタントハウスの空輸送の実証実験に成功」、内閣府「孤立集落発生の可能性に関する状況フォローアップ調査(第2回)」
居住空間輸送を担うインスタントハウスとパートナー企業
インスタントハウスについて
インスタントハウスは、2011年の東日本大震災での被災地支援をきっかけにした名古屋工業大学大学院の北川啓介教授の研究をもとに、LIFULLと名古屋工業大学大学院による共同研究にて開発した新しい構築物です。テントシートを空気で膨らませ、内側から硬質発泡ウレタンを吹き付けて施工するため、断熱材を360°に使用した構造となり、外気温の影響を受けにくい空間になります。
基礎工事は不要で、ペグやビスで固定します。設営時間は1棟あたり数時間(約6時間)で、建築確認は原則として不要です(行政判断による)。サイズを調整することも可能なため、避難スペースや医務室、支援拠点、備蓄倉庫など用途に応じた仕様で設置されています。

株式会社ODC(富山県滑川市)
株式会社ODC(オードック)は、令和3年7月に富山県滑川市で設立された企業で、重量物運搬用の大型ドローンの開発、ドローンによる点検・測量、国家資格に対応したドローンスクールの運営を手がける企業です。「人に優しい現場をつくりたい」という考えから、山林工事や災害時の重量物運搬など、人が担ってきた重労働を空から置き換えることを目指しています。
今回の実験は、同社の「ドローンで人のためになることをしたい」という姿勢と、インスタントハウスの「人に寄り添う」という考え方が重なって実現したものです。
本実験に関する報道
- ニュースイッチ(日刊工業新聞社)「ドローン空輸成功、LIFULL ArchiTechが開発した『インスタントハウス』とは?」
- LOGI-BIZ online「日本初、LIFULL ArchiTechがドローン使ったインスタントハウスの空輸実験に成功」
- デジコン「ドローンでインスタントハウスの空輸送に成功。孤立集落へ迅速に居住空間を提供」
居住空間輸送に関するよくある質問
- ドローンによるインスタントハウスの空輸送実験はいつ、誰が行いましたか?
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2025年9月26日に、株式会社LIFULL ArchiTechと株式会社ODC(富山県滑川市)が実施し、運搬・設置に成功しました。2日後の9月28日には富山県南砺市の富山県総合防災訓練でデモ飛行が公開され、10月22日にプレスリリースで発表されています。
- 「日本初」はどのような範囲での表現ですか?
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2025年9月26日時点で、航空法第2条第22項の無人航空機(最大離陸重量150kg未満、構造上人が乗れず、遠隔操作または自動操縦で飛行するもの)により、断熱性能を持つ居住空間を丸ごと運搬した試みとして日本初、という定義です。ヘリコプターによる輸送や部材のみの輸送は含みません。
- ドローンで運べるインスタントハウスの重さはどのくらいですか?
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実験で使用したドローンの積載上限は80kgで、この範囲に収まる仕様で運搬しました。重量のシミュレーションや吊り位置の検討を重ね、吊り上げ時に荷崩れしないバランスを実現したとされています。地上で施工する標準仕様とは別に、空輸送用の軽量仕様が前提になります。
- 孤立集落はどのくらいありますか?
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内閣府の平成26年10月の調査では、孤立する可能性のある集落は全国で19,145集落とされています。2024年の能登半島地震では、中央防災会議の報告書によれば33地区・最大3,345人(1月8日時点)が孤立し、全て解消したのは2月13日でした。
- 空輸送以外の輸送方法もありますか?
-
あります。2025年7月には本土で成型したインスタントハウスを漁船で牽引する海上輸送の実験に西伊豆で成功しており、離島や水辺への設営が可能です。陸路では分割パーツを現地で約1時間で組み立てるパージ型があり、能登半島地震で25棟が設置されました。
まとめ|居住空間輸送は「道路が通るまで待つ」を変える技術
- 2025年9月26日、LIFULL ArchiTechとODCがドローンによるインスタントハウスの空輸送実験に成功。断熱構造の居住空間を丸ごと運ぶ試みは日本初(航空法上の無人航空機の範囲で)
- 技術的な難題は積載上限80kgへの軽量化と、吊り上げ時の荷崩れ防止
- 孤立可能性のある集落は全国19,145。能登半島地震では最大3,345人が孤立し、解消まで約6週間かかった
- 空(ドローン)・海(漁船牽引)・陸(パージ型)の3つの輸送モデルが揃い、地形に応じて選べる
- 実用化には重量・気象・着陸地点・自治体との協定と訓練が論点になる
居住空間輸送は、被災地支援の前提だった「現地で組み立てる」を「完成した空間を届ける」に置き換える考え方です。道路が寸断された集落に暖かく休める空間を数時間で届けられるようになれば、避難生活の初期段階で失われてきた健康と命を守る手段がひとつ増えます。今後の実証や運用の進展についても、本記事で更新していく予定です。





