防災ハウスとは?災害用ハウスの種類と選び方を自治体・企業向けに解説

災害が起きたとき、避難する人たちの住環境をどう確保するか。自治体の防災担当者や企業のBCP担当者にとって、避けて通れないテーマです。2024年の能登半島地震では、避難生活の負担などを原因とする災害関連死が直接死を上回り、住まいの質が命に直結することが改めて示されました。

こうした背景から注目されているのが、平時から備えておける「防災ハウス」と呼ばれる構築物です。本記事では、防災ハウスや災害用ハウスの種類と選び方、建築確認や税務など導入前に確認したいポイント、平時にグランピング施設として活用しながら備える考え方までを解説します。

監修者

株式会社LIFULL ArchiTech 取締役COO
名古屋工業大学 共同研究員
山中典(やまなか つかさ)

この記事で扱う防災ハウスは、自治体・企業・土地オーナーが備えとして導入できる構築物を指します。耐震性の高い注文住宅をお探しの方は、ハウスメーカー各社が提供する防災住宅の情報をご覧ください。
目次

災害時の住環境確保が課題になる理由

防災ハウスの具体的な話に入る前に、なぜ災害時の住環境がこれほど注目されているのかを整理します。背景にあるのは、災害関連死という深刻な問題です。

避難生活の長期化と災害関連死

災害関連死とは、災害による負傷の悪化や、避難生活等における身体的負担による疾病で亡くなり、災害弔慰金の支給等に関する法律に基づいて災害が原因の死亡と認められたものを指します。建物の倒壊や津波といった直接的な被害ではなく、その後の生活環境が原因で命を落とすケースです。

2024年の能登半島地震では、石川県内で死者741人が報告されており、このうち災害関連死は513人で、死者の約69%を占めています。行方不明者は別に2人と報告されています(2026年8月31日14時時点、石川県発表)。

参照元:石川県・第232報

公的な住まいが行き渡るまでの「あいだ」

発災直後、被災した方の多くは体育館などの避難所に身を寄せます。行政による公的な住まいの提供が始まるまでには用地の確保や建設の期間が必要で、その間の避難生活は数週間から数か月に及ぶことも珍しくありません。

この「あいだ」の期間こそ、プライバシーの不足、寒さや暑さ、雑魚寝による睡眠不足といった負担が積み重なり、災害関連死のリスクが高まる時期とされています。避難所の環境をどう改善し、一人ひとりが休める空間をどれだけ早く用意できるかが問われています。

自治体・企業に求められる事前の備え

発災してから居住空間の調達を始めても、製作や輸送に時間がかかり、必要なタイミングに間に合わない可能性があります。だからこそ、平時のうちに設置しておくか、すぐ展開できる体制を整えておくという備えが現実的な選択肢です。

自治体にとっては住民の命を守る防災施策として、企業にとっては従業員の安全確保や事業継続計画(BCP)、地域貢献の一環として、災害用ハウスの導入を検討する動きが広がりつつあります。

防災ハウスとは?災害用ハウスの種類と選び方

防災ハウスという言葉に法律上の定義はなく、大きく2つの意味で使われています。自分が探しているのはどちらなのかを最初に確認しておくと、情報収集がスムーズになります。

注文住宅の「防災住宅」と、備えとして導入する構築物の違い

1つめは、耐震性や蓄電設備を強化した個人向けの注文住宅です。ハウスメーカー各社が「災害に備える家」として展開しており、持ち家の防災性能を高めたい方に向けたものになります。

2つめが、本記事で扱う災害時の居住空間として使える簡易な構築物です。避難所の環境改善や、公的な住まいが行き渡るまでのあいだの受け皿として、自治体や企業が平時から備えておくものを指します。災害用ハウスや簡易ハウスと呼ばれることもあります。

災害用ハウスの主な種類

備えとして導入できる災害用ハウスにはいくつかのタイプがあり、それぞれの特徴を表に整理しました。

スクロールできます
タイプ特徴基礎工事輸送・設置平時活用
ドーム型(インスタントハウスなど)シートを膨らませ内側に断熱材を吹き付けて短時間で完成不要軽量で運びやすく、設置は数時間グランピングや事務所など幅広い
コンテナ型堅牢な箱型ユニット。内装の自由度が高い必要な場合があるクレーン車やトレーラーでの搬入が一般的店舗や宿泊施設として使われる
移動式木造(ムービングハウス)木造の移動式住宅。居住性が高い基礎の設置が必要な場合がある大型トレーラーでの輸送が前提宿泊研修施設などで活用される
テント型軽量で安価。空調や断熱は限定的不要人力で設営できるものが多いイベントやレジャーが中心
段ボール型(屋内用)避難所内に置く個室ブース。低価格不要屋内で短時間に組み立て可能備蓄しやすい

屋外に独立した居住空間をつくるタイプと、避難所の屋内環境を仕切るタイプでは役割が異なります。両方を組み合わせて備える自治体もあり、どちらか一方だけが正解というものではありません。

選ぶときに確認したい比較ポイント

災害用ハウスを比較する際は、次の観点をチェックしてみてください。

  • 発災からどれくらいの時間で設置できるか
  • 基礎工事や大型重機が必要か
  • 道路が寸断された被災地まで運べる重量・サイズか
  • 断熱や空調で夏・冬の避難生活に耐えられるか
  • 平時に収益を生む使い方ができるか

とくに最後の「平時活用」は、導入コストの回収に直結する視点です。次の章で詳しく見ていきます。

「平時活用×災害時転用」という備え方

防災ハウスの導入でネックになりやすいのが、使うかどうかわからないものに予算を割きにくいという事情です。この課題への答えとして広がっているのが、平時は別の用途で活用しながら災害に備えるという考え方になります。

フェーズフリーという考え方

平常時と災害時という2つのフェーズの垣根をなくし、ふだん使っているものがそのまま非常時にも役立つようにしておく考え方は「フェーズフリー」と呼ばれています。備蓄品のように使わないまま保管するのではなく、日常で価値を生みながら備えるのが特徴です。

居住空間についても同じ発想が可能です。平時に宿泊施設や事務所として使っている構築物が、発災時にはそのまま避難のための空間になる。この形なら、防災投資が眠らせるお金ではなくなります。

社会的備蓄の広がり

官民が連携し、平常時は収益施設として利用しながら災害時に備える取り組みは「社会的備蓄」とも呼ばれています。移動式木造住宅の分野では、自治体や企業の遊休地に設置して平常時は宿泊研修施設などとして使用し、災害時に被災地へ輸送する仕組みが動き始めています。

参照元:一般社団法人日本ムービングハウス協会「防災・家バンク」

平時はグランピング施設として運用する選択肢

ドーム型の防災ハウスと相性がよいのが、グランピング施設としての平時運用です。非日常感のある外観と断熱された室内空間は、そのまま宿泊コンテンツとして成立します。遊休地にグランピング施設として設置して宿泊収益を上げながら、発災時には避難のための空間へ転用するという備え方です。

グランピング事業の始め方や費用感は、以下の記事で詳しく解説しています。

平時活用のポイント

宿泊事業として運用する場合は旅館業法などの許認可が必要になります。防災目的の備えであっても、平時の使い方に応じた手続きは通常どおり発生する点に注意してください。

インスタントハウスを防災用途で導入する

ドーム型の災害用ハウスの代表例として、被災地での導入が進むインスタントハウスを紹介します。

インスタントハウスとは

インスタントハウスは、2011年の東日本大震災での被災地支援をきっかけにした名古屋工業大学大学院の北川啓介教授の研究をもとに、LIFULLと名古屋工業大学大学院による共同研究にて開発した新しい構築物です。テントシートを送風機で膨らませ、内側から断熱材を吹き付けて仕上げます。

断熱材を360°に使用しているため外気温の影響を受けにくく、夏も冬も過ごしやすい室内環境をつくれるのが特徴です。ラインナップはSimpleとBasicの2ラインで、サイズは43・50・60の3種類があります。出入口はファスナー式が標準で、Basicラインでは22色のカラーと最大5か所の窓を選べます。

発災時に短時間で設置できる理由

災害時の備えとして注目される理由は、設置の速さと身軽さです。基礎工事が不要で、ペグやビスで地面に固定する方式のため、発災後の混乱した状況でも数時間(約6時間)で設置できます。風速80m/s程度までの強風に対応し、積雪は40cmまで(耐雪仕様では60cmまで)の環境で使用できる仕様です。

2025年9月には、ドローンでインスタントハウスを空輸して設置する実証実験が実施され、断熱性能を持つ居住空間を丸ごとドローンで運搬する日本初の試みとされています。道路が寸断されて孤立した集落へ、短時間で居住空間を届ける手段として期待されています。

参照元:WEB防災情報新聞「名工大・北川教授の『インスタントハウス』熊本でも注目!」

被災地での導入実績

インスタントハウスは、2023年のトルコ・シリア大地震の被災地に簡易住宅として設置されました。2024年の能登半島地震では、被災者の一時的な住まいや地域の集会所として活用され、屋外用の設置数は2024年12月時点で240棟と報じられています。

2026年の熊本地震でも、震度7を観測した氷川町などで設置が進められました。2026年8月時点の報道では、熊本県内で約150棟が設置される予定とされています。避難所からではなく自宅の敷地内に設置できるため、住み慣れた場所を離れずに過ごせる点が被災した方に受け入れられています。

参照元:株式会社LIFULLプレスリリース(2023年)日経クロステック(2024年12月)RKK熊本放送(2026年8月)

屋外用と屋内用は別の製品です

インスタントハウスには、屋外に設置するドーム型のほかに、避難所の中で使う段ボール製の屋内用があります。本記事で紹介しているのは屋外用です。設置数などの数字も製品ごとに異なるため、情報を確認する際はどちらの話かに注意してください。

被災地での活用の詳細は、以下の記事でまとめています。

防災ハウス導入前に確認しておきたいこと

設置してから慌てないために、法規と税務のポイントを押さえておきます。いずれも最終的な判断は設置場所の自治体によるため、事前の確認が欠かせません。

建築確認の扱い

インスタントハウスのような基礎を持たない構築物の場合、建築確認は原則として不要とされています。ただし、この扱いは行政判断によるもので、設置場所や使い方によって見解が分かれることがあります。導入を検討する段階で、設置予定地の自治体の建築指導課などに相談しておくと安心です。

税務上の扱い

基礎で土地に定着していない構築物は、動産として扱われるのが一般的です。事業用として使う場合には償却資産税の対象となる可能性があるため、申告の要否は所在地の自治体や税理士に確認してください。

固定資産税との関係は、以下の記事で詳しく解説しています。

設置場所と固定方法

設置には、おおむね平坦で排水に問題のない土地が向いています。固定はペグやビスで行うため、地面の状態によって固定方法の検討が必要になる場合があります。サイズを調整することも可能なため、敷地の広さや想定する用途に合わせて相談してみてください。

自治体・企業での導入の流れ

導入を検討する場合の一般的な流れを紹介します。平時活用の計画とセットで進めると、予算の説明もしやすくなるはずです。

検討から設置まで

STEP
相談・問い合わせ

想定する用途(平時の使い方と災害時の役割)、設置予定地、必要な棟数を整理して相談します。

STEP
設置場所・仕様の確認

土地の状態や希望サイズ、カラー、窓の数などを決めます。あわせて自治体への建築確認の相談も、この段階で済ませておくとスムーズです。

STEP
契約・製作

仕様が固まったら契約に進みます。特注仕様の場合は製作期間が別途必要となります。

STEP
設置

基礎工事が不要なため、現地での設置作業は数時間(約6時間)が目安です。本体価格に設営費が含まれているわかりやすい価格設定になっています。

補助金・制度の活用

導入費用の負担を抑える手段として、国や自治体の補助金・支援制度を活用できる場合があります。平時にグランピングなどの事業として運用する計画であれば、新たな事業への進出を後押しする補助金や、地方公共団体と金融機関が連携する融資の仕組みが選択肢に入ります。

制度ごとの要件や活用のイメージは、以下の記事を参考にしてみてください。

防災ハウスに関するよくある質問

防災ハウスと、災害時に行政が提供する住まいは同じものですか?

別のものです。行政による住まいの提供は災害救助法に基づく公的な制度で、供給が始まるまでに一定の期間がかかります。防災ハウスは自治体や企業、個人が独自に備える構築物で、避難所での生活と公的な住まいの提供が始まるまでのあいだを補う役割が期待されています。

設置に建築確認は必要ですか?

原則として不要とされています。ただし扱いは行政判断によるため、設置前に設置予定地の自治体へ確認してください。

固定資産税はかかりますか?

基礎を持たない構築物は動産として扱われるのが一般的です。事業用の場合は償却資産税の対象となる可能性があるため、所在地の自治体や税理士に確認してください。

平時はどのような用途に使えますか?

グランピングをはじめとする宿泊施設、事務所、休憩スペースなど幅広く活用できます。宿泊事業として運用する場合は旅館業法などの許認可が必要です。

設置にはどれくらい時間がかかりますか?

インスタントハウスの場合、現地での設置作業は数時間(約6時間)が目安です。特注仕様の場合は製作期間が別途必要となります。

まとめ 防災ハウスは「使いながら備える」時代へ

災害関連死の多くは、発災後の避難生活のなかで起きています。避難所と公的な住まいのあいだを埋める空間を平時から備えておくことは、自治体にとっても企業にとっても、住民や従業員の命を守る具体的な手段になります。

本記事のまとめ
  • 能登半島地震では死者・行方不明者の6割以上が災害関連死とされている
  • 防災ハウスは避難所と公的な住まいの「あいだ」を埋める備え
  • ドーム型・コンテナ型・移動式木造など種類ごとに設置性と平時活用が異なる
  • 平時はグランピングなどで収益化しながら備える方法がある
  • 建築確認は原則として不要とされているが、行政判断によるため事前確認が必要

インスタントハウスは、トルコ、能登、熊本と被災地での活用が積み重なってきた構築物です。平時活用と災害への備えを両立する選択肢として、導入を検討してみてはいかがでしょうか。

監修者

山中典(やまなか つかさ)

株式会社LIFULL ArchiTech 取締役COO/名古屋工業大学共同研究員。インスタントハウスの開発・事業を軸に、災害支援から多様な空間活用まで幅広く展開している。

株式会社LIFULL ArchiTechは、東証プライム上場企業である株式会社LIFULLの子会社です。

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