地域資源を活かした新しい事業を始めたいものの、初期投資の重さで踏み出せない。そんな事業者にとって、施設整備費や機械装置費を返済不要の公費で支援してくれる制度がローカル10000プロジェクトです。
令和8年度(2026年度)からは制度が拡充され、公費助成の基本上限額が2,500万円から3,000万円へ、条件を満たす場合の最高上限額が5,000万円から5,500万円へ引き上げられました。グランピングや農泊、観光拠点、古民家活用といった地域密着型の事業とも相性がよく、活用の幅が広がっています。
監修者

株式会社LIFULL ArchiTech 取締役COO
名古屋工業大学 共同研究員
山中典(やまなか つかさ)
この記事では、ローカル10000プロジェクトの仕組みと5つの必須要件、上限額の考え方、申請の流れ、採択事例までを最新の制度内容にもとづいて整理します。あわせて、初期投資そのものを抑える構築物の選び方についても紹介します。
ローカル10000プロジェクトとは
ローカル10000プロジェクトは、総務省が推進する「地域経済循環創造事業交付金」の通称です。産学金官の連携のもと、地域の資源と資金を活用して、雇用吸収力の大きい地域密着型企業を全国で立ち上げることを目的としています。平成24年度に始まった制度で、令和6年度までに250を超える事業が交付決定されています。
仕組みの中心にあるのは、地域金融機関からの融資と公費助成を組み合わせるスキームです。地域金融機関から融資を受けて事業化に取り組む民間事業者に対し、自治体が初期投資費用を助成し、その経費に対して総務省が交付金を出します。融資という形で金融機関が事業性を審査する設計になっているため、交付を受けた事業の継続率は9割を超えると公表されています。
申請主体は自治体|事業者が直接申請する制度ではない
この制度でつまずきやすいのが申請の入口です。ものづくり補助金などと異なり、民間事業者が総務省へ直接申請する仕組みではありません。事業を実施する地域の自治体が主体となって総務省へ提出します。
- 自治体がローカル10000プロジェクトの予算を確保しているか
- 自治体が独自に設けている申請期限はいつか
- 地域金融機関から融資の了解を得られる見込みがあるか
総務省の提出期限は毎月末とされていますが、これは自治体から総務省への提出期限です。事業者が守るべきは自治体側の期限となるため、必ず窓口で確認してください。
国庫補助事業と地方単独事業の違い
ローカル10000プロジェクトには2つの型があります。規模と要件が異なるため、事業計画の大きさに応じて選ぶことになります。
| 項目 | 国庫補助事業 | 地方単独事業 |
|---|---|---|
| 公費の内訳 | 国費+地方費 | 国費を含まない |
| 上限額 | 最大5,500万円 | 最大1,500万円 |
| 要件の数 | 5つ(モデル性を含む) | 4つ(モデル性は問わない) |
| 審査 | 総務省の外部有識者 | 市町村の有識者または商工会議所等の確認 |
| 対象経費 | 施設整備費、機械装置費、備品費など | 上記に加え広告宣伝費、商品開発費なども対象 |
地方単独事業は先行事例の横展開を後押しする趣旨のため、モデル性が問われません。すでに他地域で実績のある業態を自分の地域で立ち上げる場合は、こちらのほうが現実的な選択肢になります。
【令和8年度】制度改正で拡充された3つのポイント
物価高騰や地域ニーズの変化を踏まえ、令和8年度から支援内容が拡充されました。改正は令和8年4月1日以降の交付申請から適用されます。
1.公費助成の基本上限額が3,000万円へ
公費(国費+地方費)による助成の基本上限額が、原則2,500万円から原則3,000万円へ増額されました。資材費や工事費の上昇を受けた見直しで、同じ計画でも公費でカバーできる範囲が広がります。
2.最高上限額が5,500万円へ
「融資/公費」比率に応じた上限額のかさ上げ措置が見直され、最高上限額が5,000万円から5,500万円へ引き上げられました。より大きな融資を引き出して地域経済循環を推進する狙いで、地域金融機関等からの融資額(または出資額)が公費助成額の4倍以上となる場合に上限5,500万円が適用されます。
上限額は融資額との比率で決まる設計のため、公費助成を大きくしたい場合は融資額も相応に引き上げる必要があります。自己資金と融資、公費のバランスは、金融機関との調整段階で詰めておきましょう。
3.重点支援分野は国費の交付率が3/4へかさ上げ
国費の交付率が原則1/2から3/4へかさ上げされる「重点支援分野」が設定されています。対象は「地域脱炭素」と「若者・女性活躍」の2分野です。該当する要素を計画に組み込めるかどうかは、自治体の負担感にも影響するため、事前相談の段階で確認しておく価値があります。
令和7年度中に所定の事業実施計画書が総務省へ提出されている案件については、交付申請が令和8年度になっても従前の上限額(「融資/公費」比率1.5倍から3倍の区分)が適用される場合があります。すでに調整が進んでいる案件は、どちらの区分で扱われるかを自治体に確認してください。
令和8年度の交付団体決定は7月末までに4回実施
制度は通年で動いており、交付団体の決定も継続的に公表されています。令和8年度は4月24日の第1回を皮切りに、5月29日、7月1日、7月30日と決定が重ねられました。募集が特定の時期に限られる補助金と違い、準備が整った段階で自治体経由の申請へ進める点はこの制度の使いやすさといえます。
対象となるための5つの必須要件
国庫補助事業として交付を受けるには、次の5要件をすべて満たす必要があります。地方単独事業の場合はモデル性を除く4要件です。
| 要件 | 求められる内容 |
|---|---|
| 地域密着型 | 地元産品や自然資源、文化資源など地域資源を活用した事業構成であること |
| 地域課題への対応 | 雇用創出や観光拠点化など、公共的な課題の解決につながること |
| 地域金融機関からの融資等 | 地域金融機関等からの融資、地域活性化ファンドの出資、民間クラウドファンディングのいずれかを受けること |
| 新規性 | 既存事業の拡張ではなく、事業者にとって新規の事業であること |
| モデル性 | 地域内で前例がなく、他地域への波及効果が見込める先進的な取り組みであること |
融資の要件には細かい条件が付きます。地域金融機関等からの融資は原則として無担保が条件で、経営者保証は認められていません。交付金事業によって取得する財産の担保は例外的に認められています。地域活性化ファンドの出資や民間クラウドファンディングのみで資金を賄う場合は、商工会議所等に事業採算性の確認を取る必要があります。
対象経費と上限額の決まり方
補助されるのは初期投資費用
国庫補助事業の対象経費は、施設整備・改修費、機械装置費、備品費、調査研究費の4区分です。施設整備費には事業の遂行に必要な建物、建物付属設備、構築物の設計・工事監理・建築工事・修繕・購入にかかる経費が含まれますが、用地取得費は除かれます。
振込手数料や各種申請手数料、収入印紙、保険料、事業に直接使用したと特定できない一般事務用品は対象外です。地方単独事業では、広告宣伝費や商品開発費などのソフト経費も1事業あたり上限200万円まで対象となります。
既存事業とかけ合わせた複合事業を新たに行う場合、対象になるのは新規事業部分の経費に限られます。宿泊事業者が宿泊と飲食を組み合わせた新規事業を始める場合であれば、飲食事業部分にかかる経費が対象という整理です。
上限額は融資額との比率で決まる
交付額の上限は、地域金融機関から受ける融資額(または出資額)が交付額の何倍にあたるかで段階的に決まります。融資を大きく引き出すほど上限が上がる設計です。令和8年度からは、比率が4倍以上の場合に最高上限額の5,500万円が適用されます。
この設計を理解しないまま「上限5,500万円の制度」として計画を組むと、必要な融資額が想定を大きく超えて破綻します。逆算すると、5,500万円の公費助成を受けるには2億円規模の融資が前提となる計算です。自社の返済能力と照らして、現実的な着地点を先に決めておくほうが計画は進めやすくなります。
事業期間は最大2年、交付決定は単年度ごと
事業実施期間は、交付決定を受けようとする年度を含めて最大2年です。ただし交付決定は単年度ごとに行われるため、2年目は改めて申請と審査が必要になります。年度をまたぐ場合は、対象経費や工事等の契約を年度ごとに明確に切り分けておく必要があります。
原則として交付決定前に着手した経費は対象外です。やむを得ない事情がある場合に限り、交付決定前着手届を提出することで着手が認められる場合があります。海外からの輸入品で納期が長く年度内完了が難しいケースなどが該当しますが、総務省への事前相談が必須です。
申請から交付決定までの流れ
事業実施場所を管轄する自治体の窓口へ相談します。予算措置の有無と自治体独自の申請期限を確認するところから始めましょう。総務省のサイトには都道府県別の窓口一覧が掲載されています。
申請前に地域金融機関等から融資の了解を得ておく必要があります。複数の金融機関による協調融資や、融資とファンド出資の組み合わせも認められています。
自治体や金融機関と調整しながら、地域経済循環創造事業実施計画書を作成します。様式と記載例は総務省のサイトからダウンロード可能。審査を左右する工程なので、素案の完成度が鍵になります。
見積書や事業内容の説明資料を添えて提出します。国庫補助事業では外部有識者が5要件への適合を審査します。
結果は原則として申請の2〜3か月後に出ます。自治体経由で交付決定の通知を受けてから事業に着手します。
採択事例と審査で見られるポイント
採択率は公表されていない
この制度について、総務省は交付決定事業の一覧を公表している一方、申請件数に対する採択率は公表していません。「採択率◯%」という数字が出回ることがありますが、公的な根拠のある数値ではないため、計画の前提に置くべきではありません。
判断材料として使えるのは、実際に交付決定された事業の内容と、公費・融資の金額バランスです。自社の計画と近い規模・業種の事例を見ておくと、現実的な着地点が掴めます。
交付決定された事業の例
| 事業 | 年度 | 公費交付額 | 融資 |
|---|---|---|---|
| 長野県小諸市/本陣主屋を活用した飲食施設整備 | 令和4年度 | 2,720万円 | 八十二銀行 4,080万円 |
| 徳島県美馬市/休業したガソリンスタンドの復活整備 | 令和5年度 | 2,500万円 | 四国銀行 2,500万円 |
| 奈良県宇陀市/日本酒文化の体験型見学施設 | 令和5年度 | 2,500万円 | 南都銀行・大和信用金庫 3,000万円 |
| 北海道留萌市/ウニの陸上養殖による地域ブランド創出 | 令和6年度 | 4,500万円 | 北海道銀行 9,000万円(予定) |
古民家や休廃業施設の再生、観光拠点の整備、地域特産品を使った6次産業化など、業種の幅は広いのが特徴です。金額の面では、公費2,500万円前後の事業が中心的なゾーンであることも読み取れます。
計画書で具体化しておきたい3点
審査は5要件への適合を見るものなので、対策は要件を数値と固有名詞で裏づけることに尽きます。
- 地域資源の活用/どの地元産品を、どこから、いくら継続的に仕入れるのかを金額で示す
- 雇用創出/新規雇用の人数だけでなく、職種と雇用形態まで記載する
- 実現可能性/商品設計、価格根拠、立地の商圏、集客手段を分けて説明する
特に雇用に関しては、地元雇用の人件費累計を公費交付額で割った「人的投資効果」が原則1.0倍以上となる計画が求められるとされています。交付額2,500万円の事業であれば、融資期間を通じた地元雇用の人件費累計が2,500万円以上となる設計が必要という考え方です。
初期投資そのものを抑える|インスタントハウスという選択肢
制度活用と初期投資の圧縮は、セットで考えると効果が大きくなります。公費助成で初期投資を支援してもらいつつ、構築物の選び方で投資額そのものを抑えれば、自己資金と融資の負担をさらに軽くできるためです。
インスタントハウスは、2011年の東日本大震災での被災地支援をきっかけにした名古屋工業大学大学院の北川啓介教授の研究をもとに、LIFULLと名古屋工業大学大学院による共同研究にて開発した新しい構築物です。ドーム型の外皮を空気で膨らませ、内側から断熱材を吹き付けて一体化させる工法で、断熱材そのものが構造を支える形をつくります。

地域密着型の新規事業と相性がよい理由
基礎工事が不要でペグやビスで固定でき、設営は数時間(約6時間)で完了します。断熱材を360°に使用しているため外気温の影響を受けにくく、通年での運用にも対応しやすい構造です。本体価格に設営費が含まれているわかりやすい価格設定のため、実施計画書に添える見積書でも総額の根拠を示しやすくなります。
建築確認申請は原則として不要とされていますが、最終的な判断は設営場所を管轄する行政によります。設営前に土木事務所へ建築許可申請の要否を、消防署へ消防設備の要否を確認してください。税務上は動産として扱われるのが一般的とされ、事業用資産として償却資産税の対象となる可能性があります。
施設整備費は建物・建物付属設備・構築物に係る経費が対象とされていますが、具体的にどの支出が交付対象になるかは事業ごとの判断です。導入を計画に組み込む場合は、自治体の担当窓口へ事前に確認してください。
想定される活用シーン
グランピングや農泊の宿泊棟、観光拠点の休憩スペース、地域特産品の販売ブース、コワーキング拠点など、地域資源と結びつけやすい用途が中心です。断熱材の発泡ウレタンを用いた独自の構造により、高い断熱性能と熱循環効率を実現した新しいサウナであるインスタントサウナは、100V電源で運用できる電気サウナストーブを採用しており電気工事が不要です。観光拠点の付加価値設備として、インスタントハウスと組み合わせて導入することもできます。


ローカル10000プロジェクトのよくある質問
- ローカル10000プロジェクトの補助額はいくらですか
-
令和8年度からは公費助成の基本上限額が原則3,000万円、最高上限額が5,500万円です。上限は地域金融機関からの融資額と公費助成額の比率で決まり、融資額が公費助成額の4倍以上となる場合に5,500万円が適用されます。地方単独事業の場合は最大1,500万円です。
- 採択率はどれくらいですか
-
総務省は交付決定事業の一覧を公表していますが、申請件数に対する採択率は公表していません。公表されている数値ではないため、採択率を計画の前提に置くことは避けてください。実際に交付決定された事業の規模と内容を参照するほうが実務的です。
- 申請期限はいつですか
-
総務省への提出期限は毎月末とされていますが、これは自治体から総務省への提出期限です。事業者が守るべきは各自治体が独自に設けている期限となるため、自治体のサイトを確認するか窓口へ問い合わせてください。
- グランピングや宿泊事業も対象になりますか
-
交付決定事例には観光拠点の整備や飲食施設の再生が含まれており、地域資源を活用した宿泊・観光事業も対象になりえます。ただし5要件への適合が前提で、支援対象となるかは個別の事業ごとの判断です。まずは自治体の窓口へ相談してください。
- 交付決定の前に工事を始められますか
-
原則として交付決定前に着手した経費は対象外です。やむを得ない事情がある場合に限り、交付決定前着手届を提出することで着手が認められる場合がありますが、総務省への事前相談が必須となります。
- 他の補助金と併用できますか
-
原則として国の補助金との重複は認められません。ただし、対象経費や収支を完全に切り分けられる場合は併用が認められることがあります。同じ施設内でも異なる用途の設備や事業部門であれば、明確に区分できる範囲で認められる場合があります。
まとめ
ローカル10000プロジェクトは、地域資源を活かした新規事業の初期投資を返済不要の公費助成で後押しする制度です。令和8年度の拡充で基本上限額が3,000万円、最高上限額が5,500万円へ引き上げられ、観光・宿泊事業や6次産業化に取り組む事業者にとって活用の幅が広がりました。
- 令和8年度改正で基本上限3,000万円、最高上限5,500万円へ
- 上限額は融資額と公費助成額の比率で決まる
- 必須要件は地域密着型・地域課題への対応・融資等・新規性・モデル性の5つ
- 申請主体は自治体。事業者の期限は自治体側の設定に従う
- 採択率は公表されていないため、交付決定事例から規模感を掴む
- 制度活用と初期投資の圧縮はセットで検討する
制度の細部は改正のたびに変わります。検討を始める段階で、総務省の最新資料と管轄自治体の窓口の両方にあたっておくことをおすすめします。





